コラムcolumn
2025年08月18日
現金主義会計ではだめなの?

現行の官庁会計は現金主義会計と呼ばれています。現金主義会計とはどんな会計でしょうか?「現金」という言葉がついていることからもわかりますが、「現金が入ってきた」と「現金が出ていった」ということを記帳する会計です。よく、おこづかい帳と同じようなものと説明されることもあります。
このようなことから、「自治体の現金主義会計はおこづかい帳と同じ現金主義会計だから、役人がお金をごまかすための会計だ」と誤解や批判をされるようなことがあります。
ここで、石原慎太郎元東京都知事の意見を紹介したいと思います。
「この国の会計制度は大体が、金の出入りだけを記した単式簿記・現金主義で、大福帳の域を出ず江戸時代から進歩がない。今日世界の先進国を眺めても、いまだに単式簿記・現金主義にしがみついているのは日本のほかにドイツくらいしかみあたらない。民間企業でも、外国でも普通にできていることが、公のセクターにもできぬはずがない。」(出典:もう税金の無駄遣いは許さない!都庁が始めた「会計革命」:平成18年)
橋下徹元大阪府知事も『今の官庁会計は「単式簿記」いわば大福帳方式で仕組み自体が財務状況を正確に表すものになっていない。』と現金主義会計の欠点を指摘しています。(出典:公会計改革白書・東京都・大阪府:平成22年)
石原元東京都知事や橋下元大阪府知事は公会計改革を先導してきたことは事実ですが、現行の現金主義会計が「大福帳」と同じという説明がなされています。ある意味悪者扱いされている大福帳とはどのようなものでしょうか?大福帳は江戸時代・明治時代の商家で使われていた帳簿の一種です。後で現金を受け取る約束としての売掛金の内容を、取引相手ごとに口座(人名口座)を設け、売上帳から商品の価格や数量を転記し、取引状況を明らかにしていました。これは商家にとっては最も重要な帳簿のひとつであったといわれています。
当時としては、十分に工夫されていて機能していた帳簿ではないでしょうか?
私が、習志野市で公会計を推進するにあたり、多くの職員や議員の方からは「現金主義会計ではだめなの?」という素朴な疑問を投げかけられました。
自治体の会計は、住民等からの税収の財源(=現金)を住民のためにどういう使い方をするのかということにつき、議会の承認を受けています(=予算)。そして、その使い道を「款・項・目・節」として大区分から小区分までに区分し、細部にわたって管理しているのです。
これは、お金の使い道を住民に説明する(=決算)ためには十分に役に立っています。
ここで、国や自治体の会計制度に対して現金主義を要請する根拠となっている法令を紹介しましょう。
「国費を支出し、又は国が債務を負担するには、国会の議決に基づくことを必要とする」
■財政法第2条第1項
「支出とは、国の各般の需要を充たすための現金の支払をいう」
これらの条文が根拠とされ、現金主義に基づく現在の官庁会計は、日本国憲法の要請であるともいわれています。そして、憲法の要請はすべての自治体に対しての要請ということにもなるでしょう。繰り返しになりますが、官庁会計は、住民等から徴収した税金等の財源の配分を、議会における議決を経た予算を通じて事前の統制のもとで行うという点で、営利を目的とする企業会計とは根本的に異なっています。さらに税金等の配分は住民の福祉の増進等を目的としており、予算の適正、確実な執行に最も資するとされる現金主義会計が採用されているのです。これらのことから、現金主義会計が全くだめなわけでなく、今後も必要な会計制度であるといえるでしょう。
システムディ顧問 宮澤 正泰(元習志野市会計管理者)