コラムCOLUMN

2018/03/01

2018.03 京の庭・京の広場 春近し円山公園、ラジオ塔前広場

柳 京の春は一挙に訪れる。『比良の八講荒れ終い』の寒風が吹き荒んでいたかと思う間もなく、ある日突然暖かくなり春風に代わる。柳の新芽が色づき、一斉にほころび出した桜と合わさって、間もなく『見渡せば 柳さくらを扱き混ぜて 都ぞ春の 錦なりける』の春爛漫となる。

 京都の桜は円山公園である。四条通の正面にある八坂神社の奥、東山の麓一帯に広がっている。公園のほぼ中央にあって『祇園の夜桜』とも言われる枝垂れ桜が、そのシンボルである。傾斜地を利用した東半分は小川治兵衛の作庭によるもので、東山の湧水を引いた小川と池を回遊する庭園となっている。そして、西側半分はダダ広い広場である。桜が咲けば一変するが、普段は木々があるだけで何もない。だから余計に気になるのが、広場の真ん中に立つ古色蒼然とした小さな塔。『ラジオ塔』と呼ばれている。

ラジオ塔

 京都でラジオ放送が始まった1932年(昭和7年)、その普及のために設置されたそうだ。「公衆用聴取施設」といういかめしい名前のこの塔は、当時の情報通信の最先端施設。わずか80年ほど前のことだが、スマホもPCもテレビすら無かった時代、ラジオ体操は勿論、ニュースや相撲中継に人々が集まり、一喜一憂していたとか。

 夜桜見物やお花見の宴の陰で、ラジオ塔はひっそりと佇んでいる。今はもうその存在すら気付かれることもないが、情報の洪水に翻弄されがちな今、固唾を飲んでラジオ塔の音声を聞いていた情景を思い起こしてみたくなる早春の昼下がりである。(M)

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