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2017/03/01

2017.03 京の食材 京野菜…新種も伝統野菜も壬生の新鮮組

水菜と壬生菜 3月は野菜の端境期である。ということは、冬野菜も春野菜も両方出回る月である。年中出荷されている九条ネギは別挌として、水菜、壬生菜の京菜や聖護院大根、異形の堀川牛蒡に美形の金時人参、えび芋等の根菜類と一緒に蕗の薹や京ウド、こごみ薇(ぜんまい)等の山野菜やタケノコ、花菜、色鮮やかな京苺が店頭に並んで春近しを告げる。名残の冬野菜を味わいつつ、初物の春野菜も同時に味わえる贅沢な時期である。

 冬の代表的な京野菜で、春まで楽しめるのは水菜と壬生菜である。どちらも他の具材との炊合わせや、サラダとしても好まれる新鮮さが命の菜っ葉。壬生菜は葉っぱが丸く、水菜より辛味があってちょっぴり濃い大人の味だ。ギザギザ葉っぱの水菜がいつ頃丸葉の壬生菜に進化したのか?明治初期の植物書には丸葉の水菜として紹介されており、恐らく菜種菜(アブラナ)や蕪との自然交配によって生まれ、幕末頃には栽培されていたのだろう。元々水菜は、新撰組の本拠として有名な壬生地域で栽培されていたことから壬生菜(他所では京菜)ともいわれていたが、丸葉が出回るとギザギザ葉は水菜と呼ばれ、丸葉が壬生菜を名乗るようになった。勿論新撰組とは何の関係もないが、近藤勇も塩もみにして食べていたことだろう。

 京野菜は、京都の自然風土と歴史文化の産物である。夏の暑さと冬の寒さが春と秋の季節感を際立たせ、東西の二つの河川が丹波高原の豊かな栄養素を運び込む。神社仏閣の催事や各派家元の宴とそれらのお相伴にあずかる市民の食卓が、たゆみない品種改良を促してきた。海から遠いということからも、料理技術の高度化と新鮮な野菜が求められた。料理人も栽培者も伝統に拘ってきたわけではない。むしろ、良品質を求めての創意と工夫の産物である。だから、どちらも伝統を冠せずに『京野菜』と言った方が正鵠をえているようだが、市場価値的にはインパクトのある『京の伝統野菜』としてブランド化している。
 こうして、新種の京菜である壬生菜も伝統野菜として、本家の水菜と肩を並べるようになった。昨今の伝統産業界によくある本家取りに似ていなくもないが、こちらは仲良く共生している。(M)

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