コラムCOLUMN

2014/05/01

2014.05 ミステリアスin京都 都のホスピス『嵯峨野』

 嵯峨野は京都の奥座敷である。洛中を出て天神川を渡った辺りから桂川が大きく湾曲している一帯を言う。京都市の西北部で、北山から続くなだらかな斜面に田畑が広がり、寺社や竹林が散在する。特に新緑の5月は、竹林の葉づれの音を聞きながら点在する寺社を巡りつつ、「嵯峨野」の空気を五感で満喫できる格別の時期である。

 今でこそ市街地が広がって住宅も増えているが、元々嵯峨野は都の西方に位置する洛外である。西山に沈む夕日に、都人は西方の彼方にあるという仏の世界を幻視したのだろうか?
 天竜寺や大覚寺等の平安時代初期の大寺院や、藤原定家が小倉百人一首を選定した時雨亭のあった二尊院や常寂光寺、無縁仏の化野念仏寺など、都の政争から逃れた公家だけではなく行き場のない名も無き人々にとっても安らぎの地であり往生極楽の地であった。

 『往生院』と呼ばれていた祇王寺もまたそのような寺である。清盛に見捨てられた祇王姉妹とその母が、かつてライバルであった仏御前を迎えて都から移り住んだ。さらに彼女らを見捨てた清盛さえ祀られているのは驚きである。
 嵯峨野は全てを浄化する大人の隠れ里―『ホスピス』なのである。(M)

(嵯峨野は本社から地下鉄二条駅経由、JR嵯峨野線で約30分です)

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